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ニュース・お知らせ

1月12日、19日の両日、FMはつかいち(FM76.1MHz)のはつかち医療情報コーナー(9:00、13:20、18:20)に外科 加納医師が出演しました。その内容をご覧頂けます。内容は「腹腔鏡手術について」です。

2011年1月20日

腹腔鏡手術1

今回のテーマは「腹腔鏡手術」です。

JA広島総合病院 外科部長 加納幹浩が答えます。

質問:
「腹腔鏡手術」聞き慣れない言葉だと思いますが、どんな手術なのでしょうか?
加納:
医学の進歩とともに、外科手術も近年様変わりしています。病院の外科と聞くと、メスを持って切り刻む怖いイメージがあると思います。
「腹腔鏡」の『腹腔』とは『おなか』のことを意味します。胆石や胃潰瘍で手術を受けた方は、この『おなか』を開く「開腹手術」を受けています。
外科医が自分の目で見ながら手をおなかに入れて手術するので、その切り傷は多少大きくなります。現在でも一般的な外科手術とは、この開腹手術のことを意味します。
質問:
では、腹腔鏡の「鏡」は、漢字で鏡と表記しますが?
加納:
「腹腔鏡」の『鏡』とは『カメラ』のことです。仕組みは胃カメラと同じですが、使い方が異なります。
腹腔鏡下手術では、腹腔鏡と呼ばれる棒のようなカメラを『おなか』の中に挿入し、外科医の目のかわりにテレビモニターにおなかの中を映し出しながら手術を行います。
狭いところや直接見にくい場所を腹腔鏡でよく観察しながら、細い棒のような『鉗子(かんし)』と呼ばれる専用の道具を中心に使い、普段の開腹手術と同じように悪い臓器を切除したり、縫い合わせたりします。
質問:
お腹を開かないということは、傷が小さいということですか?
加納:
傷は、5~12mm程の穴が4~5箇所あります。そこからカメラや専用の電気メス、鉗子(かんし)などを入れて、手術をおこないます。
最終的には切除する胃や腸をお腹から取り出さなければいけないので、3~5㎝程の傷がお腹につきますが、従来の開腹手術の傷と比べるとその差は明かです。
質問:
腹腔鏡手術を行うことで、患者へのメリットは何ですか?
加納:
(1)お腹の傷が小さく、術後の痛みが少ない
従来の開腹手術に比べてお腹を切る傷が非常に小さく、筋肉や神経の損傷も少ないために術後の傷の痛みが軽く、鎮痛剤の使用頻度もずいぶんと減りました。
簡単な手術なら日帰りで受けることも可能です。しばらくするとお腹の傷はあまり目立たなくなります。
(2)全身状態の回復が早く、早期の退院、社会復帰が可能
一般に、手術後は胃や腸の動きが低下し、術後も麻痺が続きます。腹腔鏡手術は、手術中に胃や腸が直接空気に触れる時間が短いため、術後の早期に腸の動きが回復し、早くから食事を開始することが出来ます。
傷が小さいことと、全身状態の回復が早いということから、術後に早期退院ができ社会復帰も早くなります。
質問:
手術を行う医者にとってはどうですか?
加納:
(3)近接、拡大視で直接見えない部分も細かい操作が可能
手術する側の利点としては、カメラが近接することで細部まで観察可能となり、細かい操作ができ、より確実にできる点がメリットです。
また腹腔鏡の手術は画像に記録ができ、オンタイムまたは術後も何度も見直しができることで、修練が非常にしやすいといったメリットもあります。
質問:
では、逆に短所はありますか?
加納:
(1)可能な手術が限られる
人間の手、特に外科医の手先の動きは素晴らしいもので、難しい手術でも可能です。
しかし、腹腔鏡下手術では、専用の器具・道具を用いるとはいえ、まだ複雑な操作はできません。胆嚢摘出術のように小さな手術は容易ですが、膵臓癌のように大きな手術は非常に困難です。
(2)手術の難易度が高い
同じ手術を行う場合でも、多少難しくなります。立体的な手術を平面画像で行ったり、じかに指で触れることが出来ず、器具を介しての操作になるため、患部を縫ったり結んだりすることが難しいのです。
これは今後、我々外科医の技術の向上や器具の改良により改善させていくことが出来ると思います。
(3)医療コストが高い
三つ目に、開腹手術に比べて用いる器具、道具が高価なため、病院、医療施設の負担が大きくなります。保険適用のある手術ならば患者さんの負担額には変わりはありません。
質問:
今回は、「腹腔鏡手術」とはどんな手術なのか、お話をうかがいました。
来週は、「腹腔鏡手術」の対象となる疾患や今後の展望について教えて頂きたいと思います。

 

腹腔鏡手術2

今回のテーマは「腹腔鏡手術」です。

質問:
先週は、「腹腔鏡手術」とは一般的なお腹を開いて行う手術ではなく、腹腔鏡という棒状のカメラをお腹の中に入れモニターに映し出しながら行う手術ということでした。
また、その長所と短所も教えていただきましたがそもそも腹腔鏡手術は、いつごろから始まったのですか?
加納:
日本では、1990年代腹腔鏡下胆嚢摘出術が開始され、多くの手術に腹腔鏡が応用されて、急激に広まり、現在標準手術として確立されているものもいくつかあります。
質問:
腹腔鏡手術はまだ可能な手術が限られるということでした。どんな病気の場合に腹腔鏡手術が行われるのでしょうか?
加納:
悪性の病気では、リンパ節郭清や術中操作に伴うがん細胞のばらまきなどの問題があると言われてきました。
しかし、最近では技術の向上や機器の改良、開発により、病気によってはある程度の進行がんに対しても行われるようになりました。
大腸癌、胃癌に対しては広く行われるようになっていますし、今後は食道癌や肝臓がんといった難しい手術にも広まっていくものと思います。
また近年は皆さんが良くご存知の盲腸、いわゆる虫垂炎や腸穿孔、腸閉塞の手術といった、緊急の手術にも導入されています。
質問:
開腹手術か腹腔鏡手術かどちらで行うかはどうやって決めるのですか?
加納:
当院では、原則として学会で示されているガイドラインを遵守し、患者さんの状態や病気にあった方法を提案しています。このため進行した癌などは開腹手術にて行います。
また過去に大きな手術の経歴があったりすると、おなかの中での癒着がひどい場合があり、こういった場合腹腔鏡手術で開始したとしても、必要と考えられれば、手術中に開腹手術へ変更することもあります。
質問:
飛躍的に進歩した「腹腔鏡手術」ですが、これからの展望として、どんなことが期待されますか?
加納:
これまでの外科的手術は、外科医が直に目で見て、直接器具を手で操作して行うものであり、外科医という人間の能力に基づく限界があります。この限界を超えるためには、人間の能力を超えた『目』と『手』が必要です。
21世紀の新しい外科治療はコンピューター外科の時代ともいわれています。コンピューターグラフィックやコンピューターシュミレーションなどを駆使して、手術前に手術内容をイメージすることができます。また手術支援ロボットを用いて、正確で確実な手術操作を行います。
これらに、画像転送技術や遠隔手術システムを組み合わせれば、遠く離れた別の場所から手術を行うことも可能となります。
質問:
そうなると、患者さんの負担も減ったり、手術する側にも多くの可能性が広がりそうですね。
加納:
わずか10数年で大きな進歩を遂げた腹腔鏡下手術は、外科手術400年の中で革新的な進歩ですが、今後は、IT技術との連携により、さらに予測できないほどの発展が期待できるだろうと思います。
我々外科医は、器械や技術の発展だけにとらわれるのでなく、「人と人との心の通い合った医療」という原点を忘れずに、より質の高い手術を目指し、従来の開腹手術を超えていこうと思っています。

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