脳神経外科

ニュース・お知らせ

当科の治療内容について

2017年9月29日

当院脳神経外科では脳梗塞,一過性の虚血発作,脳血管狭窄,脳出血,くも膜下出血,脳動静脈奇形,脳腫瘍,頭部外傷,髄膜炎,原因不明の意識障害,顔面けいれんや三叉神経痛,水頭症など多岐にわたって診療,治療をおこなっています.2016年では781人の入院がありました.手術数も年々増加傾向にあり,2016年は合計338例;脳動脈瘤手術37(clipping 26例)例,頚動脈ステント留置術(CAS) 24例、脳腫瘍摘出術30例、血行再建術13例,頸動脈血栓内膜剥離術(CEA) 12例,動静脈奇形(AVM)摘出術3例、開頭血腫除去術37例,慢性硬膜下血腫59例でした.

代表的な疾患である脳梗塞,脳出血,くも膜下出血,脳腫瘍における最近の治療について簡単に説明したいと思います.

【脳梗塞】

大きく分けて脳塞栓症と脳血栓症に分類できます.脳塞栓症は心房細動などが原因となり,心臓などで形成された血栓が太い脳血管を閉塞する疾患です.致死的になることが多く,予防が極めて重要と考えています.最近の抗凝固薬は副作用の出血率が低く,他の薬との併用や食事に制限が必要なく,内服しやすくなっています.また、発症4時間30分以内では遺伝子組み換え組織型プラスミノゲン・アクティベータ(tPA)の投与、発症8時間以内で、条件を満たす疾患であればカテーテルによる血栓除去も可能となっています。脳梗塞は時間との闘いになります.救急部の医師と連携し迅速に対応しています.tPA は時間経過だけでなく,出血既往や手術既往,血圧や血糖,血小板数など禁忌項目も多く,適応を判断しつつ,内頚動脈や中大脳動脈閉塞症例では同時にカテーテルによる血栓除去治療の準備を行います.そのため発症早期の脳梗塞患者が搬送されると最低3人の脳神経外科医が速やかに集合し,治療に取り組んでいます.このため4人の医師が24時間常に待機状態を強いられる過酷な勤務状況ですが,幸い皆仕事が趣味な人たちなので前向きに仕事に取り組んでいます.

また一過性脳虚血発作などで発症する頚部内頚動脈狭窄病変が増加傾向にあります.血管内壁にアテロームといわれる粥腫が塞栓源となったり,血流低下が症状の原因となります.頚部を切開し,アテロームを切除する頚動脈内膜剥離術(CEA)という治療やカテーテル治療による血管拡張術(CAS)を行っています.血栓の状態や病変の位置などで治療方法の適応を判断しています.また中大脳動脈狭窄も一過性脳虚血発作の原因として多くみられる疾患です.この病態に対しては浅側頭動脈を頭蓋内血管と吻合する浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術が予防治療として有効です.

【脳出血】

高血圧管理に対する関心が高まり,開頭手術を要する脳出血の頻度は少なくなっています.出血量が多い場合には救命目的の開頭手術,中等量であれば機能改善を目的とした定位血腫除去を行っています.最近の症例は小出血が多く,点滴・降圧剤投与による保存的加療を行う症例が多くをしめています.小出血であっても錘体路に障害が及ぶと後遺症は必発です.予防的治療,生活習慣の是正がなにより重要だと考えています.

【くも膜下出血】

脳動脈瘤が破裂をおこすことで生じる疾患で,発症時の重症度によって軽度の頭痛から突然死までその症状には差がみられます.治療の目的は再出血予防であり,開頭クリッピング術と血管内コイル塞栓術があります.重症度,年齢,合併症,動脈瘤の部位・大きさ・形状により治療法を選択します.椎骨脳底動脈瘤や前床突起近傍動脈瘤はコイル塞栓術のよい適応です.以前はwide neck な動脈瘤はコイル塞栓術が困難でしたが,最近はステントアシストコイルという新たな方法を用いることにより,治療の幅が広がっています.
ステントアシストコイルの模式図

開頭クリッピング術は症例の蓄積のある確立された治療法です.いびつな形状の瘤やwide neck, 血腫を伴うくも膜下出血は開頭クリッピング術が適応となります.一般的に入院時重症度の高い症例や高齢者は予後も不良となる傾向が強いのですが,当科での治療成績は非常に良好であると自負しており,積極的に手術をお勧めしています.

(grade0;無症状, grade Vは昏睡状態です.)
開頭クリッピング術治療成績


遠位前大脳動脈瘤破裂
脳動脈瘤クリッピング前後の3D-CT画像

【脳腫瘍】

脳腫瘍の発生率は1年間に10万人あたり10人くらいといわれ,そのほとんどが原因不明です.種類も細別すると100種類くらいありますが,70%は髄膜腫,神経膠腫,下垂体腫瘍です.脳腫瘍の多くは手術が必要と判断されますが,その目的には①腫瘍の種類を確認するため(生検),②腫瘍の体積を減らし,放射線治療や化学療法を併用して治療する,③全摘出で治癒を目指す,と大別することができます.腫瘍の部位,ひろがりや神経機能を総合評価し,治療方針を個々に検討します.脳内に発生する神経膠腫はgrade I-IVまでありますが,浸潤性に発育するため治癒が困難であり,特にgrade IVにおいては30年以上にわたり治療成績の目立った改善がみられない難治腫瘍であり,今後の更なる研究が待たれるところです.

これまで当科では年齢を考慮し,手術治療を選択してきましたが高齢者が以前より体力的に向上していること,手術技術,麻酔技術,術後管理が進歩していることから高齢者でも手術をためらう必要性は乏しいと感じています.

実際手術成績も他施設と比較し遜色はないと自負しています.

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